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Rio+20が閉会し、2か月がたちました。世界中の首長や代表者に採択されたRio+20宣言では、大きな成果の一つとして、山岳地域の人々の便益や、気候変動に対する山岳地域生態系のもろさなどが認識されました。今月は、ヒンドゥクシ・ヒマラヤ地域の8ヶ国にまたがり政府間の情報や調査の中心となっているICIMODの事務局長デビッド・モルデン博士に山岳地域の人々や生態系の大切さについてお話を伺います。
デビッド・ジェームズ・モルデン
ICIMOD事務局長

2011年12月にICIMOD事務局長に就任。開発専門家として、水管理、生計手段、環境、生態系サービスに関するプログラムの企画・計画・実施・監視において30年以上の経験を持つ。ヒンドゥクシ・ヒマラヤ地域で活動し、インダス川、ガンジス川、黄河、メコン川、揚子江、アムダリヤ川、シルダリヤ川流域での様々なプロジェクトに携わる。ICIMOD事務局長就任前は国際水管理研究所(IWMI)事務局次長を務め、自らが主導したプログラムの成果を「Water for Food, Water for Life(食料のための水・生命のための水)」にまとめた。
2009年の国際農業研究協議グループ(CGIAR)優秀科学者賞をはじめ多数の受賞歴あり。
関連リンク:
ICIMOD

2012年 8月

アジアの屋根:山岳地域の民と生態系
―Rio+20成果を振り返って―

国際総合山岳開発センター (The International Centre for Integrated Mountain Development (ICIMOD)) 事務局長
デビッド・ジェームズ・モルデン



リオ+20の成果

---リオ+20の宣言「共通のビジョン」では、山岳生態系が地球全体にもたらす恩恵と、山岳地域に住む人々による持続可能な開発への多大な貢献が確認されました。

モルデン:
リオ+20に関しては、そのプロセスや成果文書「我々の求める未来」について様々な欠点が指摘されていますが、山岳分野では大きな成果が得られました。成果文書には山岳地域をテーマとする3つのパラグラフが設けられ、山とその重要な役割、山岳地域で生活を営むコミュニティが世界の多くの人々の幸福に貢献していることに対して国際社会の注目が集まっています。また、同時に、山岳生態系が、気候変動や、我々が日々目撃している様々な変化に脆弱であることも認識しています。

成果文書では、山岳地域やそのコミュニティにとって重要ないくつもの課題が、山岳地域の章だけでなく文書全体を通して提起されています。1)食料安全保障と持続可能な農業、2)水及び水質・水量を維持するための生態系の役割、3)資源の保全と持続可能な利用の促進、4)森林・土地管理の重要性、5)持続可能な観光、これら全てが持続可能な山岳開発に何らかの役割を果たしています。さらに、6)男女の平等とジェンダー・エンパワーメント、7)あらゆる声を代表する効果的なガバナンス、8)能力強化の必要性にも触れており、これら要素は全て、山岳地域社会の持続可能な生活向上や天然資源の効果的な管理能力強化に直接関わってきます。

今必要なのは、これらの認識を実行に移すことです。

山岳地域の“貧困削減”がカギ

---リオ+20では、山岳地域の持続可能な開発という問題についてどのような示唆が得られましたか?またアジアの山岳地域に住む人々にとって喫緊の課題は何ですか?

モルデン:
山岳地域における喫緊の課題は、根深い貧困と不平等です。顕著なのがヒンドゥクシ・ヒマラヤ地域で、貧困率は46%に上り、6,100万人以上が貧困ライン以下の生活を送っています。山岳地域の人々、中でも貧困層は、環境劣化や気候変動・洪水・干ばつの影響を受けやすいのです。さらに、1)グローバル化、2)土地利用の変化、3)移住の増加――主に男性が新たな所得機会を求めて都会や他国へ移住するなど、コミュニティの変化を促す要因も、気候変動の影響軽減や山岳地域社会の適応能力強化において検討すべき側面です。大切なのは、このような生計手段の変化に上手く対応することであり、熟練技術を身に付けて移住する人に権限を与え、斡旋業者から公正な扱いを受けるよう確保したり、故郷への仕送りが地域社会の持続可能な発展に役立つようにすることです。

チベット自治区、信仰の山カイラシュ山
まず地域社会の貧困問題を解決しない限り、山岳地域の保全も持続可能な開発も不可能です。コミュニティの適応能力を高めるには、1)新たな収入源を確保し、2)食料安全保障を強化し、3)地域社会のエンパワーメントを図ることが重要です。女性はこのような変化の影響を受けやすいですが、同時に、天然資源や地域社会の健康ならびに栄養の管理において極めて重要な役割を担っています。つまり適応戦略の策定には女性の役割が不可欠なのです。

さらに、山岳地域の貧困と脆弱性の問題に取り組む上で特に注目すべきなのが水です。水環境は絶えず変化し、高地では水温が上昇しています。アジアでは、氷河や雪の融解率が高まるにつれ給水塔の貯水量が減少し、山岳地域の人々は泉などの水源が干上がるのではないかと懸念しています。また、洪水や干ばつなど異常気象の頻度も増える傾向にある中で、地域社会は水不足に対処するための適応戦略を立て、洪水や干ばつに伴うリスクを低減させなければなりません。水の問題は山岳地域社会に多くの問題を引き起こしていますが、水そのものはチャンスの源だと考えるべきです。エネルギー生産のための持続可能な水利用や農業用水の生産的な利用は、成長エンジンとして山岳地域の貧困問題を解消する可能性を秘めているからです。ただしその潜在力を活かすには、これらの水源がまたがる国々が国境を越えた協力を促進することが不可欠です。

今後の課題は、言葉を実行に移すことで、そのためにはコミュニケーションを向上させ、山岳地帯やそこに住む地域社会が直面している問題を国際社会に対してもっとうまく伝えることが大切です。


課題山積の中でチャンスも

---山岳地域では気候変動が重要な問題だと認識されていますが、どのような行動をとる必要がありますか?

モルデン:
山岳地域における気候変動の問題に効果的に対処するには、複数の分野での取り組みを同時に行う必要があります。現地の地域社会が実施できる取り組みもたくさんありますが、国・地域・世界レベルで対応すべきこともあります。しかしどのレベルでの対応であれ、持続可能な開発と適応能力強化のカギとなるのは農村の貧困対策です。

気候変動は山岳地域社会に様々な形で影響を及ぼしますが、最も大きな影響は、伝統的な生計手段を変化させ、干ばつ・洪水など増えつつある異常気象に対してより脆弱になることです。とはいえ、そのような変化は、同時に新たなチャンスももたらします。現在も成長し続ける都市においては、はちみつ、薬草・アロマ植物、高付加価値の農作物など、山岳地域が産地となるすきま商品の市場が拡大していて、これらは農村山岳地域に住む人々の新たな収入源となる可能性を秘めています。しかし、たとえそれらを栽培・採取する手段やノウハウを持っていても、商品として市場へ出すには多くの課題があります。生産者と市場、消費者とを結ぶバリューチェーン(*1)を構築し、貧しい生産者が恩恵を得る公平な方法を確立しなければなりません。

養蜂家
国際総合山岳開発センター(ICIMOD)が総合的な対策として1991年から実施している「ミツバチプロジェクト」では、資源の乏しい農家が近代的なミツバチ管理法を学ぶことができ、バリューチェーンの向上によって市場へのアクセスも増えています。またステークホルダー(利害関係者)をまとめて協同組合を結成し、国の品質保証システムのような制度を考案するなど、発展途上国のはちみつ生産者が、需要の増えている欧米諸国で市場拡大を目指しています。このプロジェクトによってはちみつ生産量は大幅に増加し、地元の生産者に多大な恩恵をもたらしています。これらは、農村地域での新たな生活手段となっているだけでなく、地域固有のミツバチ保護と受粉の促進をサポートし、固有植物の保全や農業生産、特に果樹栽培の支援にもつながっています。しかし残念ながら、所得が向上するだけでは天然資源の持続可能な利用を確保することはできません。新たな所得機会が創出され、土地・森林・水・生物多様性を含む天然資源の持続可能な管理が並行して進められなければならないのです。

しかし残念ながら、所得の向上だけでは天然資源の持続可能な利用を確保することはできません。革新的な所得機会の創出と、土地・森林・水・生物多様性を含む天然資源の持続可能な管理が並行して進められなければなりません。良い例として挙げられるのが、国際的なREDD+(森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減)プログラムから派生した活動です。効果的に実施されれば、参加する地域社会に新たな収入源をもたらしながら、森林被覆率を上げ、森林保護を促進することができます。ICIMODが2010年から関わり、ネパールで実施しているREDD+のパイロットプロジェクトも成功例の1つです。ノルウェー開発協力庁(NORAD)が資金援助するこのプロジェクトは、ファイナンス・メカニズムを設置した上で、二酸化炭素排出量を効果的に削減し、適切な森林管理によって炭素隔離量を増加させた地域社会に報酬を与えています。現時点で支払われた金額は95,000米ドルに上ります。重要なのは、この資金が地域社会の中でどのように分配され使用されているかです。資金配分の最終的な責任は地域社会にあり、これまでのところ、男女間や社会人口学的・社会経済的に異なる層の間で公平に共有されていることに期待が持てます。

また今後、気候が引き起こす自然災害の頻度と強度が上昇すると予測されている中で、所得の創出だけでなく、山岳地域の災害関連リスクを減少させる対策を講じることも急務です。山岳地域に住む人々が、気候に起因する自然災害リスクを予防・準備・軽減できるように支援することが早急に求められます。氷河の融解が進むにつれて、氷河湖の数や規模も増大し、下流の村が氷河湖決壊洪水(GLOF(*2))の脅威にさらされています。ICIMODは、ヒンドゥクシ・ヒマラヤ地域の複数の国で地域洪水情報システムを導入するプロジェクトに携わってきました。本格的に始動すれば、下流域や他国の利用者に早期警告が発せられ、死者を出すような破壊的な鉄砲水に対して、各自が備え、影響を軽減できるようになります。


多国間協調とコミュニケーションが必須

REDD+の炭素隔離計測
モルデン:
多様性が激しいヒマラヤ地域ですが、急速に変化する世界で素早く解決策を見つけ出すには、その知識を多国間で共有することが不可欠です。あらゆる状況に通用するアプローチではなくても、何らかの手助けがあれば、アイデアを容易に現地の事情に適応させることができます。例えば、ICIMODがIGESとともに開発している農業の適応事例を地域レベルで査定するLaIN (Local Adaptation Index)プロジェクトは、その一つです。知識の共有であれ、越境問題への共同対応であれ、国境を越えて共に取り組むことは、地域における信頼醸成や連携構築に重要な手段です。

地域の持続可能な開発においては、科学と科学知識の共有が今後も重要な役割を果たすでしょう。現地でそのまま実施すれば良いだけの簡単な解決策もあれば、あらゆるレベルで科学的根拠に基づいた意思決定が求められる複雑な問題もあります。最近まで、ヒマラヤ地域ではデータの大きなギャップがあり、この複雑な地域で適切な計画や政策を策定することが困難でした。現在ICIMODはこのギャップを埋めるべく、積雪・氷河の状態に関する基準を設定し、地域の生物多様性に関するデータを収集し、貧困および脆弱性とその要因への理解向上に努めています。

多くの解決策、特にパイロットプロジェクトを実践として普及させる取り組みでは、プロジェクトをただ物理的に実行するだけでは不十分で、コミュニケーションの向上や能力強化が必要です。アイデアを実行に移すには、単に知識を形成する以上のことを目指さなければなりません。気候変動の適応・緩和策による恩恵を可能な限り多くの人に行き渡らせ、最大限の効果を生むには、コミュニケーションと知識管理がカギとなります。そして、それはICIMODにとっての最大の課題です。


――ありがとうございました。


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*1:バリューチェーン:製品が消費者に届くまでの製造、出荷物流、販売といった一連の付加価値を生み出すプロセス
*2:Glacial Lake Outburst Flood




「Monthly Asian Focus: 持続可能なアジアへの視点」について

IGESでは、1998年の設立以来、アジア太平洋地域における環境問題や環境政策の動向をとりまとめた「アジアの環境重大ニュース」を毎年末に発表してきました。2011年からは、“持続可能なアジア”をキーワードに、ダイナミックに動きつつあるアジアの環境動向を、第一線で活躍する専門家の視点・考察とともにタイムリーにお届けしています。

 

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