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Climate Updates

米国大統領選挙における気候変動政策の位置付け

2016年9月7日

1. はじめに

米国では、民主、共和両党の党大会において、クリントン氏、トランプ氏が、それぞれ両党の大統領候補者として決定された。大統領選の結果が米国の気候変動政策に大きな変化をもたらす可能性があることから、両氏の気候変動対策についての言動は、世界的に大きな注目を集めている。ここでは、党大会における両氏の指名受諾発言及び両党の政策綱領において、気候変動政策がどのように扱われているかを整理した。

2. 最近の全般的な傾向
(1) 強化されたクリントン氏の気候変動政策

最近の両候補の動きを見て、最も顕著な傾向は、クリントン氏の気候変動政策に関する言動が積極的になってきていることである。党大会での指名受諾演説では、気候変動を「でっち上げ」といってはばからないトランプ氏への当てこすりも含めて、次のように述べている。

「私は、科学を信じている。気候変動は現実のものであり、クリーンエネルギーによって何百万人もの良い給与を伴う雇用を生み出しつつ、私たちの地球を守ることは可能だと信じている。」

また、民主党の政策綱領においては、その前文において独立のパラグラフを確保して、「民主党は気候変動が我々の経済、国家安全保障、更には子供たちの健康と未来にとって、現実かつ緊急の脅威であると信じている。米国民は、21世紀のクリーンエネルギー超大国になることによってもたらされる雇用と安全を受け取ることができると信じる。」と述べているが、これは2012年の政策綱領にも見られなかったプライオリティであり、民主党にとって今回の大統領選において気候変動政策をいかに重視しているかがうかがわれる。

また、政策綱領の詳細においても、気候変動について詳細な記述を盛り込んでいる。オバマ大統領再選の際の政策綱領においても、国内外の気候変動政策についてかなり触れられていたが、今回の政策綱領は、オバマ政権下での種々の成果を踏まえて、それをより強化し、具体化している感がある。

当初、クリントン氏は、例えば炭素価格付けには慎重な姿勢をとるなど、サンダース氏と比較すると、必ずしも積極的ではないとの評価もされていた。民主党候補の一本化以降、サンダース氏を支持してきた環境保護団体の一部は、今後、いかにクリントン氏の政策を気候変動にポジティブなものとしていくかを重視しているとも報じられている。クリントン氏としてはサンダース支持層を取り込む必要があり、実際、指名受諾演説において、サンダース氏とともに策定した政策綱領の実現のために、知恵とエネルギーと情熱を結集しようと、サンダース支持層に呼びかけていることは、非常に興味深い。

(2) 共和党の基本スタンスを踏襲するトランプ氏の気候変動政策

一方のトランプ候補は、基本的には、これまでの共和党の姿勢を受け継いでいるようである。気候変動を「でっち上げ」とし、米国経済に負担を強いるために中国が作り上げたものとの主張を展開するなど、トランプ氏独特の言い回しも加わって、極めてネガティブな印象を与えている。

指名受諾演説においては、気候変動への言及はない。一方で、気候変動に明示していないものの、規制の問題について、行き過ぎた規制を撤廃し、国内でのエネルギー生産の制限をなくすことで、雇用と20兆ドルもの経済効果を生み出すとしていることは、暗示的である。

政策綱領では、こうした点を更に具体的に盛り込んでいる。オバマ政権が進めてきた様々な規制や国際協調を否定し、それによって、米国内のエネルギー資源を最大限に活用し、雇用と経済を活性化するとの主張である。

このように、気候変動政策は、今回の大統領選において明確な対立構造を表す争点の一つとなっている。

3. 政策綱領に見る両候補の考え方の比較

両党の政策綱領では、気候変動及び気候変動政策に関して、明確な考え方の相違がある(* 参考: プラットフォーム2016でみる民主党と共和党の気候変動政策 107KB)。ここでは、典型的と思われるいくつかの点について整理した。

(1) 気候変動の科学と基本認識

トランプ氏が気候変動を否定していることはよく知られており、政策綱領では、IPCCについても、政治的なメカニズムで、バイアスのない科学的機関ではないと断じている。なお、指名受諾演説において、福音主義派コミュニティの貢献に対して感謝を表明していることは、気候変動の文脈ではないとしても、示唆的なものがある。

そのトランプ氏も、インフラ整備に気候変動影響への考慮を組み込もうとする州政府の試みには理解を示しているとされ、また、国際協調の取組について、諸外国の対策強化なしに米国企業が取組を求められることは競争力を阻害するとして反対していると伝えられており、こうしたことは、氏の気候変動そのものに関する認識がどこにあるか判然としない面もある。

一方の民主党の政策綱領では、こうしたトランプ氏との違いを強調するかのように、気候変動が現実かつ緊急の脅威であると強調し、更に国家安全保障上の脅威であるとしている。同時に、クリーンエネルギーの面で、米国民の雇用と安全に寄与するとの点を強調して、有権者の理解を得ようとしている。

このような気候変動についての科学的な認識を踏まえて、民主党の政策綱領では、2050年までに2005年比で80%を超える温室効果ガスの削減を含めた具体的な約束を掲げている。

(2) エネルギー政策との関係

再生可能エネルギーの活用、推進を強調している点は、両党の政策綱領とも、共通している。ただし、民主党の政策綱領では、米国がクリーンエネルギー超大国になることによって、選挙戦でも争点となっている雇用と経済の安定を確保するとしている。また、10年間で電気の50%をクリーンエネルギー由来のものとするとの定量的な目標を掲げ、建築物や運輸セクターなどの対策、省エネや再生可能エネルギーに係る 税制優遇措置や補助金改革などの具体的な措置に触れている。

石炭については、エネルギー生産コミュニティに新たな投資を行い、雇用の創出を支援するとしている。雇用の確保は、大統領選の争点でもあり、産炭地域の懸念に配慮しているものと考えられる。

一方、共和党の政策綱領は、米国が有する豊富で安価なエネルギー資源をフル活用することによって、雇用の確保と経済の活性化を実現させようとしており、その障害となる規制撤廃を求めていることが特徴的である。民主党が抑制してきたパイプライン計画や公有地での採掘などのプロジェクトを、全面的に推進しようとしている。

特に石炭についての考え方の相違が際立っており、民主党が進めるクリーン電力計画に対抗して、石炭労働者やその家族を民主党の急進的な反石炭政策から守るとしている。実際、産炭地域では、トランプ氏への強い期待があるとされている。この点について、昨年来日した米政府高官は、環境保護庁が推し進めているクリーン電力計画について、米国では石炭が市場における競争力を失いつつあり、そのことが、他国と比べれば石炭火力の規制導入を容易にしていると述べていたことが想起される。シェールガスのシェア拡大、再生可能エネルギーのコストの低下などにより、石炭関係投資がリスクとして認識されており、こうした状況でトランプ氏がどのような具体的なビジョンを描いているのか注目される。

(3) カーボンプライシング

民主党の政策綱領は、二酸化炭素、メタンその他の温室効果ガスを価格付けるべきであるとしている。従来、クリントン氏は、プライシングには慎重であるとされていたが、あるいはプライシングに積極姿勢を示してきたサンダース氏及びその支持層を意識して、党の政策綱領の調整がなされた可能性もある。また、クリーンエネルギー経済への移行のための税制改革にも言及している。

一方、共和党の政策綱領では、いかなる炭素税にも反対として、毅然として明確な姿勢を示している。

(4) 規制

民主党の政策綱領では、クリーン電力計画、自動車の燃費規制、建築基準や機器の基準など、汚染や効率の基準を維持し、実施し、強化するとしている。シェールガス生産のための水圧破砕についても、法律上の抜け穴を解消して厳しい安全確保を実施するとし、メタンの排出削減にも積極姿勢を示している。

これに対して、共和党の政策綱領は、年々環境は改善しており、規制を強化しなくても、機器の更新によって大気の質は引き続き改善するとしている。また、民主党が進めてきた規制強化について、コストを無視し、便益を誇張し、憲法違反を犯してでも、連邦機関による環境規制を押し付けるものとし、規則制定権限の憲法上の委任を厳格に制限し、規制による影響については市民への補償を求めるとしている。特に、環境保護庁が進めているクリーン電力計画について、大気浄化法の制定時にはおよそ想像もしなかった二酸化炭素規制の実施を禁止するとして、規制の撤廃を明確に位置付けている。

(5) 国際協調

オバマ政権では、気候変動に対処するためのグローバルな取組強化を目指し、国際社会と協調して、パリ協定の採択にも積極的に貢献してきた。こうしたスタンスを踏襲し、民主党の政策綱領では、気候変動の危機に対するグローバルな強固な解決策を提示すべく、米国が先頭に立つべきとの基本認識を示し、パリ協定の採択におけるオバマ大統領のリーダーシップを賞賛し、途上国支援についても触れている。

一方、共和党の政策綱領では、パレスチナ問題の文脈ではあるが、気候変動枠組条約事務局への米国の資金拠出を直ちに停止するよう要求するとしている。また、京都議定書及びパリ協定について、単に署名者の個人的な約束を表しているに過ぎないとし、上院の批准がなされるまでは、米国に対して拘束力を生じることはないとしている。

気候変動の基本認識の相違に加え、アメリカ第一主義とされる国際社会への不信が明確に反映されている。

4. 終わりに

正式に両党の候補者として決定され、11月の投開票に向けて、両候補ともに、政策の肉付けや新政権での人事構想などを練っていると考えられる。

一方、その間にも、国際社会は気候変動政策の実施を進めつつある。具体的には、昨年採択されたパリ協定を実施に移すために、各国における締結手続き、詳細なルールを策定するための国際的な議論、各国が国際的に約束した目標を達成するための国内対策の具体化といったことである。また、2020年までに提出するよう求められている長期戦略の策定作業も重要な課題である。米国政府においても、オバマ大統領を先頭に、国内対策、国際枠組みの議論ともに、積極的な対応を進めている。

大統領選の結果によって、気候変動の科学が変わるものでもなく、また、世界的に求められる排出削減が変わる ものでもない。しかし、米国の動きが世界の気候変動政策に大きな影響をもたらしかねないことは事実であり、引き続き、注目していく必要がある。

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